『アンタッチャブル』&『道化師』
2001-10-31


映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


映画を見たらオペラも見ようよ
第13回 現実の物語『アンタッチャブル』と『道化師』
〜マフィア映画とヴェリズモオペラ その2

『ゴッドファーザーpart3』と同じくオペラ観劇中に暗殺が進行する『アンタッチャブル』。オペラの舞台のシーンはほんの一瞬でしたが、使われていたのは一瞬でも強烈な名曲中の名曲、イタリアオペラを代表するアリア「衣装を着けろ」です。

まずは『道化師』ストーリー(ピンク色の部分がカポネも涙した「衣装を着けろ」)。

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プロローグ。一座の役者トニオが道化の衣装で「これからお目にかけるのは作りもののお芝居ではなく、生身の人間の人生なのです。」と前口上を述べる。

1幕、祭りの日、旅芝居一座の四人が村へやって来る。座長のカニオと役者のペッペは村人と飲みに出かけ、座長の妻ネッダはトニオに口説かれるが冷たく追い払う。そこへ村の青年シルヴィオがネッダに会いに来る。ネッダは夫にも一座にも嫌気がさしていて、シルヴィオと今晩芝居の後に駆け落ちしようと約束する。しかしそこへカニオが戻って来て、見つかったシルヴィオは急いで逃げる。カニオはネッダに相手の名前を問い詰めるが、芝居の時間が迫る。カニオは「お前は道化師、衣装を着け、笑うんだ」と、絶望の中で喜劇を演じなければならない境遇に泣く。

2幕、芝居小屋に村人たちが集まり、「カニオの妻ネッダは言い寄るトニオを相手にせずペッペと駆け落ちする」という現実と酷似した道化芝居が始まる。カニオは演技でネッダに不倫相手の名を尋ねるうちに現実との区別がつかなくなり、本気でネッダを問い詰める。迫真の演技に大喜びの観客も次第に異様さに気付き始める。ついにカニオはネッダをナイフで刺し、客席から飛び出して来たシルヴィオも刺して、観客たちに「喜劇は終わりました」と告げる。
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さてこの『道化師』と前回の『カヴァレリア』は現在では「元祖ヴェリズモ」の双璧とされていますが、『道化師』は『カヴァレリア』の影響を受けて、というよりも『カヴァレリア』の成功に対抗して翌年に書かれた作品。「浮気の上の殺人」という同じ題材、間奏曲をはさんで続けて演奏される場面構成、前奏曲中のセレナードと前口上、歌ではなく語られる最後の台詞など、多くの共通項も勝負を挑むかのようです。詩情の『ゴッドファーザー』にも通じる『カヴァレリア』では、浮気は「罪」「人前で口にしてはいけない事」とされ、殺人も舞台裏で行われ、ヴェリズモが旋律の美しさとキリスト教のヴェールで包まれた感もありましたが、シャープな『アンタッチャブル』にも通じる『道化師』はもっと生々しくストレートで、浮気の現場も殺人も見せ、旋律よりも音型が重要に扱われ、文学と音楽の一貫したヴェリズモをさらに実現していると言われます。『アンタッチャブル』では、舞台上のカニオが「衣装を着けろ」と泣きながら笑う時、客席のカポネは涙を浮かべますが、そこへ暗殺成功の知らせが届くと、その表情はおそろしい笑みに変わります。二人の「泣きながら笑う男」(竹中直人さんじゃありません)が壮絶なシーンです。

『カリフォルニア・ドールズ』(1981米)では、女子プロレスチームのマネージャー、ピーター・フォークが移動中のカーラジオでいつもオペラを聴いていて、特にお気に入りなのが「衣装を着けろ」でした。フォークはこのアリアを「どんなに辛くても悲しくてもただ次の町へ行くだけだ」という旅芸人の悲哀の歌だと説明していました。


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