『フィツカラルド』
2002-06-11


映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


映画を見たらオペラも見ようよ
第21回 オペラハウスを建てられなかった男『フィツカラルド』
〜ネタバレ注意!

「アマゾンの奥地にオペラハウスを建てようとする男の物語」とたいてい説明される『フィツカラルド』、しかしこの映画は「アマゾンの奥地にオペラハウスを建てる物語」ではなく、あくまでも「男の物語」のほう。そこを勘違いしていてどうせ感動の苦労話だろうと見始めた私は(ヘルツォーク監督とクラウス・キンスキーでこの読みは甘かった)夢破れる展開に驚き、それがショックに近い感動に変わりました。ですので未見の方にネタバレしてしまったらゴメンナサイ。

さてこの『フィツカラルド』は「オペラを知っているともっと面白いんでしょう?」とよく質問されますが、全然そんな事はありません(笑)。知っていて面白いとすれば唯一「リカルドなんとかいう作曲家(リヒャルト・ワーグナーのことらしい)のドイツのオペラで…たしか『清教徒』という題名らしい」という台詞に「違い過ぎ!」と突っ込めるくらい(『清教徒』はイタリアのベッリーニの作品で舞台はイギリス)。でもじゃあ終わりというのもなんですので使われたオペラを一通りご紹介しておくことにしましょう。

劇中では二本のオペラが上演されます。まずフィツカラルドが何日もかけてボートを漕いで見に行き、カルーソーに指を差される(?)のはヴェルディの『エルナーニ』。

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元貴族のエルナーニを愛するエルヴィラは後見人シルヴァとの結婚が決まっているが、エルナーニの敵である国王ドン・カルロもエルヴィラに思いを寄せている。国王への復讐を願うシルヴァは、恋敵ではあるがエルナーニをかくまい二人で暗殺を誓う。エルナーニはシルヴァに狩猟用の角笛を渡し、助けてもらったお礼にこれを鳴らした時には命をシルヴァに捧げると誓う。ロ−マ皇帝に選ばれたドン・カルロは反逆者の死刑を命ずるがエルヴィラの嘆願で恩赦を与える。貴族となったエルナーニとエルヴィラの婚礼の日、シルヴァが現れて角笛を吹き、毒薬か剣かとエルナーニに迫る。エルヴィラは慈悲を請うがエルナーニは剣で胸を刺し、後を追おうとするエルヴィラを止めて息絶える。
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そんな約束でどうしても死ななければならないの?という疑問も忘れてしまうほど情熱的なオペラで、映画でも最後の三重唱が大袈裟な演技で歌われます。エルヴィラ役はもう声が出ない有名歌手なので声は裏の代役だったり、そのオペラハウスのオーナーの「南米で成功したヨ−ロッパ人はヨーロッパの有名人を呼びたがる」という台詞など、ヘルツォーク監督はオペラを神格化してしまわないよう随所にこんなシーンを作っているのではとも思えます。

そしてラストの船上で上演されるオペラは(ワーグナーではない)ベッリーニの『清教徒』。

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清教徒革命の時代、清教徒派の城主の娘エルヴィラは党派を越えて愛し合う王党派の騎士アルトゥーロと結婚できることになったが、婚礼の日、アルトゥーロは元王妃の逃亡に手を貸し、エルヴィラは他の女性と逃げるアルトゥーロを見て錯乱する。逃亡中のアルトゥーロと再会したエルヴィラは正気に戻り誤解も解けるが、アルトゥーロは清教徒軍に逮捕されてしまう。しかしアルトゥーロ赦免の知らせがとどき、二人は再び結ばれる。
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