「星は光りぬ(トスカ)」
2002-04-17


『トスカ』というからにはトスカが主役なのは仕方ありませんが、テノールはちょっと可哀想すぎ。せっかく拷問に耐えていたのにトスカにすぐばらされ友人は自殺、偽の処刑と聞かされていながら本当に殺され、トスカも「カヴァラドッシ天国で会いましょう!」ではなくスカルピアの名を叫んで死ぬ…でもテノールは登場のたびに高音を聴かせてくれるし、未練がましい歌詞だって歌われるともうこれでもかと泣ける。『トスカ』といえばテノールに期待してしまうのがオペラの不思議です。(よく似た物語『アンドレア・シェニエ』は題名通りテノールが主役。第8回参照。)

さてこの「星は光りぬ」が使われた映画は実話をもとにした2本、新人警官が警察組織の腐敗に立ち向かい正義感ゆえに孤立していく、というシドニー・ルメット監督の社会派ドラマ『セルピコ』と、同性愛の少女の母親殺害事件を描いたピーター・ジャクソン監督作品『乙女の祈り』。

『セルピコ』ではアル・パチーノ演じるセルピコが、まずは『ジャンニスキッキ』のアリアを車の中でかけながらメチャ下手に熱唱し、壮絶な硬派ドラマの中でちょっと息抜きさせてくれます。イタリア系でオペラ好きという設定なのかな、と思わせておいて、中盤には、屋上のテラスで「星は光りぬ」を聴きながら休んでいるセルピコに隣のビルの屋上から女性が話しかけてきて親しくなる、という静かなシーンがあります。私はこの曲とセルピコに共通する「死」のイメージよりも、アリア前半の「庭の戸がきしみ彼女が入ってきた」という美しい回想とオーバーラップしました。

『乙女の祈り』は主人公の二人の少女がテノール歌手マリオ・ランツァのファンという設定。(ランツァは『歌劇王カルーソ』(1951米)で伝説の名歌手カルーソを演じた歌手で、3大テノールの面々もこの映画を見てオペラ歌手を目指したという逸話も。)全編にわたって彼の歌が流れますが、最初はオペレッタ『学生王子』のセレナードなど乙女の憧れのような甘い歌、物語が進むにつれ「死」を思わせるプッチーニとなるあたりが秀逸です。『蝶々夫人』「ハミングコーラス」、『トスカ』「星は光りぬ」、そして少女が「二人きりになりたかったの〜あなたは私の愛で命のすべて!」と『ボエーム』4幕のミミを歌うシーンは美しくてどこか怖い。ジャクソン監督は今でこそ『ロード・オブ・ザ・リング』でファンタジーの人ですが当時はホラー&スプラッタのイメージ。題材も異常犯罪なのか多感な少女の純粋さゆえの殺人かというボーダーライン上、作品自体もオペラや空想シーンでかろうじてファンタジー?という微妙なバランス。

ところで今回の2本と前回の『キリングフィールド』もですが、実話と聞くと実際の人物もほんとにオペラが好きだったのか気になりませんか? 脚色だとしたらそれもまた凄い話。セルピコも少女たちも例えばエルビスのファンだってよかったわけなのに、あえてオペラを歌わせたのは?とあれこれ想像するのもまた「映画に出てくるオペラ」ウォッチングの楽しみの一つなのです。

実はもう1本「星は光りぬ」が歌われるというので見てみたい作品があります。『王者のためのアリア』(1979ポーランド)、ポーランドの伝説的プロレスラーの生涯を描いた作品で、彼の勝利の度に客席でオペラ歌手がアリアを高らかに歌うのだそうですが、これも実話なのでしょうか(オペラ歌手のエピソードも??)。

テノールアリア2回シリーズ、これまで2曲がプッチーニになってしまいましたが、「ベスト3」とするなら、「衣装をつけろ」(第13回参照)、「星は光りぬ」、ドニゼッティ『愛の妙薬』から「人知れぬ涙」、あたりが順当なのではないでしょうか。というわけで次回は完結編「人知れぬ涙」です。

◇『セルピコ』SERPICO(1973米)
監督:シドニー・ルメット
音楽:ミキス・テオドラキス

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