la chanson la plus charmante 〜愛の歌〜
1998-03-11


 フーゴー・ヴォルフはドイツ歌曲史上において、ブラームスにつづく重要な作曲家と言える。彼は40数年の短い生涯の間に300曲もの歌曲を創造している。その特徴としては、人間のあらゆる局面が、さまざまな手法にて表出されていることにある。また一人の詩人に集中して作曲活動を行うという特徴も見逃せない。今回取り上げた<恋人に>と<狩人>はメーリケの詩によるもので、前者には宇宙的な恍惚感が、また後者には諧謔性が見事織り込まれ、ヴォルフの人間的なもの(今回は愛)に対する着眼の豊かさをうかがうことができる。
 シューベルトの<私の挨拶を>はリュッケルトの詩による。リュッケルトはシューベルト以後の作曲家にとって格好の触発源となったが、シューベルトがこの<私の挨拶を>を含む5曲の作品しか創造していないことは興味深い。創造力豊かな言葉が、直情的な旋律に乗って進行する様は、時代が流れても変わることのない人間の愛の本質をくすぐられるような気がする。ちなみに原題を直訳すると「私から挨拶をされなさい(うけよ)!」となる。この表現は現在ドイツ語において、もはや過去のものであり、文語体のような存在である。ドイツ人恋人をお求めの方はご注意下さい。

モーツァルト:
何と美しい絵姿(『魔笛』より)
窓辺においで(『ドン・ジョヴァンニ』より)

 タミーノのアリアとドン・ジョヴァンニのセレナードを本日はフルートとクラリネットの二重奏で演奏します。この編曲は二百年前から残るもので、蓄音機さえない時代に管楽器二本だけでオペラの名旋律が楽しめたコンパクトさと同時に、シンプルな音に想像をかきたてられる所がまた魅力と言えます。モーツァルトの新作オペラが流行歌であり、貴族達がおかかえの楽団に演奏させて楽しんだ、そんな優雅な時代に思いを馳せるもよし、現代の豪華な演奏を思い描くもよし。お楽しみ下さい。

デンツァ:妖精の瞳
チマーラ:ストルネッロ

 「おお、美しい妖精の瞳、何と不思議なその深く美しい瞳、あなたは私から若い青春の平安を奪っていった。私の捧げた情熱の若い血のかわりにあなたはそれ以上のもの(愛)を与えてくれるでしょうか?」「おまえのバラ色の唇でお前の心の香気である優しい接吻をしてくれ、そして新しい人生の情熱の輝きをこの乾いた心に与えてくれ!」イタリアの愛の歌に説明は不要。

ラヴェル:ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ
1.空想的な歌 2.叙事詩ふうの歌 3.酒の歌

 「風車と戦うドン・キホーテ」を子供の頃絵本などで見たことのある人は多いと思う。風車を巨人と思いこみ戦いを挑む、ドン・キホーテはそんな人である。この曲に出てくるドゥルシネア姫も、彼の想像が創りあげた理想の女性である。純粋で誇り高く空想的で破天荒な彼は、ちょっといきすぎた「Chevalier-dieu」(神のごとき騎士、彼自身がそう言っている)なのだ。
 この3曲はそんな彼をよくあらわしている。第1曲<空想的な歌>は、「もしあなたがそう言うなら...という言葉で始まる4節から成り、それに続けて「地球を停めてみせましょう」「夜の幕を切りさいてみせましょう」「夜空に星をいっぱいちりばめてみせましょう」と豪語し、愛の為には死をもいとわないと主張する。第2曲<叙事詩ふうの歌>では聖ミシェルと聖ジョルジュに向けて、あなた方と見まがうばかりのうつくしい姫に祝福を!と祈る。第3曲<酒の歌>では、酒の力を借りたドン・キホーテにもはや恐い者などなにもない。陽気に彼の「騎士道」をつらぬくのである。

ロドリーゴ:
ある娘の名によるエール・ド・バレエ
恋はどこから来るの?/ポプラの林へ行ってきた

 ロドリーゴは今世紀スペインの作曲家で「アランフェス協奏曲」などのギター曲が代表作とされる一方、ピアノ曲、歌曲の分野でもスペインの民俗性とフランス印象派の影響による独特の世界を築いている。

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[├stravinsky ensemble]

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